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季節の訪れを感じる秋の七草|春の七草との違いは?

皆さんは「秋の七草」をご存じでしょうか。七草粥を食べる「春の七草」は有名ですが、秋にも七草と呼ばれる草花があるのは、なかなか知られていないのです。もし秋の七草を聞いたことがあっても、7種類すべての名称まですらすら出てくるという人はあまりいないでしょう。

今回はそんな秋の七草に注目して、7つの種類や由来に迫り解説していきます。春と秋の七草の違いについても、分かりやすくご紹介するので、それぞれの意味や由来を知って、日本の秋を楽しんでみましょう。

秋の七草とは?

秋の七草は、下記の7種類の植物を指します。

  • オミナエシ
  • キキョウ
  • クズ
  • ススキ
  • ナデシコ
  • ハギ
  • フジバカマ

秋の七草とは、秋の時期に見頃を迎える花々を鑑賞して、季節の移ろいや風情、花の美しさを感じるものです。そのため、祭りや儀式に使われることはなく、粥として食べる習慣もありません。平安時代の貴族たちは、秋の七草が咲き誇る花野を歩きながら、季節を味わい詠歌を楽しんでいました。

秋の七草の由来

まずは、秋の七草の由来から知っていきましょう。秋の七草は、歌人として名高い官人の、山上憶良(やまのうえのおくら)が詠んだ和歌に登場する草花です。この山上憶良が詠んだ歌は約80首が万葉集に収録されていますが、そのうちの2首が秋の七草の所以となる歌です。

 

(1)「秋の野に 咲たる花を 指折り かき数ふれば 七種の花」

秋の野に咲く草花を一つずつ指折り数えると7種ある

 

(2)「萩の花 尾花葛花 瞿麦の花 姫部志 また藤袴 朝顔の花」

萩の花(ハギ)、尾花(ススキ)、葛花(クズ)、瞿麦の花(ナデシコ)、姫部志(オミナエシ)、藤袴(フジバカマ)、朝顔の花(キキョウ)

 

(1)では、秋に咲く草花には7種あると詠み、続いて(2)ではその7種について、萩の花=ハギ、尾花=ススキ、葛の花=クズ、撫子(瞿麦)の花=ナデシコ、女郎花(姫部志)=オミナエシ、藤袴(フジバカマ)、朝顔の花=キキョウがあるのだと詠みます。歌中の朝顔の花は、アサガオやヒルガオ、ムクゲなどの諸説が論じられていますが、一般的には桔梗である説がもっとも有力です。

秋の七草と春の七草とは何が違う?

春と秋にそれぞれある七草ですが、この2つの違いは何でしょうか。結論からいうと、春の七草は粥として食べる食用、秋の七草は花の姿から季節感を楽しむ観賞用です。

七草粥では、セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロを調理します。それぞれには消化を促進する効果や吐き気を抑える作用、胃を健康に保つ働きを持っているので、豪華なお正月料理をたくさん食べて疲れた胃腸を癒やす食事として食べられています。

そして秋の七草は、花本来の美しさを季節と共に楽しむものです。野山に咲き誇る美しい姿を眺めて、草花を通して季節の移ろいを感じられる、日本の秋を代表する7種類が挙げられます。

秋の季節行事

秋に行なわれる日本の季節行事には、秋のお彼岸やお月見を楽しむ十五夜があります。秋分の日を中心に前後3日間を加えた7日間は秋のお彼岸にあたり、ご先祖への感謝を込めてお墓参りをして、おはぎを供えします。このおはぎですが、実は七草のハギに由来しています。おはぎの表面にあるあずきの皮が萩の花に似ているので、「御萩」と呼ばれるようになったのです。 

そして、お月見に最適な時期といえば「中秋の名月」を楽しめる頃ですね。この中秋の名月とは、旧暦の8月15日に見える月を指しています。ちなみに十五夜とは、毎月数えて15夜目に輝く月を指しています。中秋の名月は、旧暦で秋の中心にあたる年に一度だけの月です。秋の十五夜は大気中の湿度が低く、月が曇らずに見られるため名月といわれます。

秋の七草の特徴や花言葉

春と比べてやや知名度の低い秋の七草ですが、平安時代から親しまれてきた日本の秋を身近に感じられる旬の草花たちです。続いては、古くから和歌や俳句に詠まれてきた秋を代表する7種類について、草花の特徴や名前の由来、そして各花の持つ花言葉を詳しくご紹介していきましょう。

オミナエシ

科・属 スイカズラ科・オミナエシ属
和名 女郎花(おみなえし)
英名 Golden lace
学名 Patrinia scabiosifolia
花言葉 「美人」「永久」
原産地 東アジア、シベリア

オミナエシはキク科の多年草で、日本や中国などの東アジアに広く自生します。秋に花を咲かせ、小さな黄色い花が集まって密集した房を形成します。花の形は管状で、先端は5つに裂けている特徴があります。小さな黄色い花が集まって咲く姿は粟に似ているので「粟花」や「粟米花」とも呼ばれます。根や全草には、解毒や鎮痛、利尿などの効能が備わっており、平安時代以前から薬草として利用されてきました。

小さな黄色い花を多数咲かせる様子から美女を凌駕する美しさと評され、女性を指す「オミナ」と、古語の「圧(へし)=エシ」が組み合わさって名づけられました。

また、かつては男性が白いご飯を食べ、女性は黄色い粟のご飯を食べていたことから、黄色い粟ご飯を「オミナメシ」と呼んでいました。このオミナメシが変化して呼ばれるようになった説も存在します。

紫式部も愛でたといわれる美しさを持ちながら、香りははっきりと好みが分かれます。ハエによって受粉するため、腐った醤油に例えられる特異な匂いで誘引するためです。切り花として飾る際は、こまめに水を交換すると特有の匂いが軽減されます。

キキョウ

科・属 キキョウ科・キキョウ属
和名 桔梗(ききょう)、岡止々支(おかととき)
英名 Balloon flower
学名 Platycodon grandiflorus
原産地 日本、中国、東アジア
花言葉 「永遠の愛」「変わらぬ愛」「気品」「誠実」

日本の歴史に根付いたキキョウは、秋の風情を楽しませてくれる花です。先ほど解説したように、山上憶良が詠んだ「朝顔が花」はキキョウを指す説がもっとも有力です。

青紫や白、ピンク色をした星形の美しい花を咲かせ、花の形を家紋に使う武将も多く、長きにわたって日本人の心を惹きつけてきた花です。蕾が開くまではふんわりと膨らんでいて、紙風船に似た形をしていることから、英名では「Balloon flower(バルーンフラワー)」と呼ばれます。

別名の「岡止々支(おかととき)」とは「岡に咲く神草」という意味を持っており、このキキョウ=トトキの咲く地として、「土岐」地名が誕生した説があります。桔梗の漢字から木偏を抜くと「吉が更に」という言葉遊びもできるので、縁起物としても愛されています。

根はサポニンを多く含み、去痰や鎮咳作用のある薬草として咳や喘息などの呼吸器系に効果がある漢方薬として用いられてきましたが、近年では自生株数が減少し、絶滅の危機に瀕しています。

生花店で見かけるキキョウは、初夏に早咲きする栽培品種で、本来の花期である秋に咲く自生種はほとんど見られません。しかし、フラワーアレンジメントにも使われる栽培品種のキキョウや、アクセント花材として優秀なススキなら生花店に並んでいるので、手軽に買い求めやすいですね。

クズ

科・属 マメ科・クズ属
和名 葛(くず)
英名 kudzu
学名 Pueraria lobata
原産地 日本、中国
花言葉 「芯の強さ」「快活」「努力」「活力」「治癒」「根気」

夏の終わりから9月にかけて美しい紫色や白色の花を咲かせるクズは、花が蝶のような形状をしており、円筒状に集まって咲きます。花の形がヒヤシンスにも似ていて、花からはジャスミンのような甘く濃厚な香りが漂います。

根から抽出される葛粉は、葛餅や葛切りの材料として活用されるほか、乾燥させて漢方薬の葛根湯として使われています。葛根湯は風邪や胃腸不良に効果があり、幅広く市販されている漢方です。

とても美しい花を咲かせるクズですが繁殖力が非常に強く、夏から秋にかけて猛烈な速さで成長していくため、生態系に影響を及ぼす潜在性を秘めています。外来生物法でが要注意外来生物として指定されており、適切な管理が必要です。

欧米では緑化目的で輸入されたクズが、想定以上の生育速度で繁殖し、駆除に悩まされることも多いようです。日本では冬の寒さで地面が枯れてしまうため、除去しやすくなります。

ススキ

科・属 イネ科・ススキ属
和名 薄・芒(すすき)、尾花(おばな)、萱・茅(かや)
英名 Silver grass, Eulalia
学名 Miscanthus sinensis
原産地 東アジア
花言葉 「心が通じる」「生命力」「活力」

日本の秋の風景を象徴するススキは、川べりに多く群生している草花です。草丈が1メートルを超え、風に揺れる穂が優雅な風景を作っています。趣のある様子から、古くから詩や歌にも詠まれてきました。

また、風にそよぐ姿から稲の代わりにお供え物としても用いられます。穂が風に揺れる様子を動物の尾に例え、「尾花(おばな)」の別名でも呼ばれます。

若い茎や根は調理され、穂は酒や酢に漬けられ、食用としても利用されてきました。風邪や胃の不調に効果があるとされ、薬用にも用いられます。

見た目の儚さに反して、ススキは非常に強い生命力を持っており、「生命力」といった力強い花言葉があります。ガーデニングでもオーナメンタルグラスとして人気ですが、ススキはアレルゲン植物に分類されるため、イネ科のアレルギーを持つ人は注意が必要です。

ナデシコ

科・属 ナデシコ科・ナデシコ属
和名 撫子(なでしこ)、大和撫子(やまとなでしこ)、常夏(とこなつ)
英名 Dianths, Gillyflower
学名 Dianthus superbus
原産地 アジア、ヨーロッパ、北米、アフリカ
花言葉 「無邪気」「純愛」

ナデシコは古くから親しまれ、美しいピンクや白などの花色と、繊細な花びらの切れ込みが特徴です。秋の七草の中でも淡紅色の儚げな花の姿や美しさ、小ぶりな花の愛らしさから特に目を惹く存在です。

ナデシコというと広義では属全般を指しますが、七草においては日本固有の品種であるカワラナデシコを指します。カワラナデシコは、清楚な心や見目が美しい日本の女性を象徴する「大和撫子」の由来でもあります。花の名は「撫でるように可愛がった子=撫でし子」が由来です。

7月頃からだんだんと花を咲かせていき、 花期が長いため古来の日本では「常夏(とこなつ)」という名でも親しまれました。長い間鮮やかさを保つため、切り花として花束やアレンジメントにもぴったりです。

ハギ

科・属 マメ科・ハギ属
和名 萩(はぎ)
英名 Bush clover
学名 Lespedeza
花言葉 「思案」「内気」「柔軟な精神」
原産地 北アメリカ

ハギはマメ科に属する落葉低木で、秋に紫や白い花を咲かせます。細い枝が垂れ下がり、白や赤紫の小さな花をたくさん咲かせます。満開時には花の重みで枝がたわみ、そよ風に揺れる様子は風情に富んでいます。

ハギの葉は丸みを帯びた楕円形で、少し落ち着いた色味のグリーンです。繊細な枝と柔らかな雰囲気の小葉が美しく、葉だけでも十分に鑑賞を楽しめます。昔から家紋などのデザインにも頻繁に描かれてきました。俳句の季語としても取り上げられており、万葉集においては、もっとも頻繁に詠まれたのが意外にもハギの花でした。

秋のお彼岸には、ハギの花が名前の由来となったおはぎ(御萩)を供えて故人を偲びます。ハギの根や茎にはタンニンやサポニンなどの成分を含み、染料や石鹸の材料として活用されるほか薬用としても使われ、古くから日本人の生活を支えてきました。

フジバカマ

科・属 キク科・ヒヨドリバナ属
和名 藤袴、蘭草(らんそう)、香草(こうそう)
英名 Thoroughwort
学名 Eupatorium japonicum
花言葉 「ためらい」「遅れ」
原産地 東アジア

フジバカマは小さなつぼみのうちはピンク色ですが、開花すると白色に変わります。花は長く密集していて、線香花火のような形状です。花は8月から咲き出して、茎先に紫色の小花を房状に広げていきます。

名前は、筒状の花弁が袴に似ていることに由来しており、万葉集や源氏物語、徒然草などの文学作品にも多く登場しています。繊細で細長い薄紫色の花は優しい雰囲気があり、ススキと一緒に飾ると、より美しさが際立ちます。別名の「蘭草」や「香草」は、葉から桜餅のような甘い芳香が漂うのが由来です。

花を乾燥させると良い香りが広がるため、古代日本の平安時代の貴族たちは、乾燥させた葉を香り袋として着物に忍ばせ、香りを楽しみました。現在では洗髪料や香水などの香料にも使われています。美しい浅葱色をしたアサギマダラという蝶も、フジバカマの花の香りに惹かれてやってきます。

かつては多く自生していましたが、近年では徐々に生育地が狭められ、準絶滅危惧種に指定されています。市場に流通する多くは、交配で作られた雑種です。地域によっては、さらに上の絶滅危惧種に指定されている場所もあります。

秋の七草をすべて覚えてみよう

秋の七草は7種類もあるので、覚えるには数が多くて少々苦労しそうですよね。ここからは、七草を覚えるための暗記方法をいくつかご紹介してみます。ここでは「5・7・5・7」の文字数に分けて、短歌や俳句のようにリズミカルに覚える方法と、語呂合わせで覚える方法を解説しましょう。

リズミカルに覚える

まずは、七草の名前にリズムをつけて、リズミカルに唱えて覚える方法です。秋の七草の花の名前の文字数を分けて、短歌や俳句のようなリズムをつけて覚えていきます。

  • (5)ハギ・キキョウ
  • (7)クズ・フジバカマ
  • (5)オミナエシ
  • (7)オバナ・ナデシコ

上記の並び順で花の名前の文字数を分ければ、何度もリズミカルに口ずさんでいるうちに自然と記憶できるでしょう。

語呂合わせで覚える

語呂合わせでは、7種類の名称の頭文字を取って、頭文字からフレーズを作って覚えていきます。

  • お=オミナエシ
  • す=ススキ
  • き=キキョウ
  • な=ナデシコ
  • ふ=フジバカマ
  • く=クズ
  • は=ハギ

花の頭の文字が出てくることで、それぞれの花の名を思い出しやすくなるのです。

  1. おすきなふくは(お好きな服は)
  2. はすきーなおふくろ(ハスキーなお袋)
  3. おきなはすくふ(沖縄救う)

語呂合わせには上記のように覚え方が複数あるので、自分がいちばん印象に残るフレーズを選んでみましょう。

まとめ

今回は、季節の趣や秋の訪れを感じられる、秋の七草をご紹介してきました。春の七草は胃腸を整えてくれる七草粥として楽しみますが、秋の七草は季節の移ろいを感じるために観賞を目的とする草花たちです。

普段から花に触れる機会の少ない人こそ、秋の行事や季節の変わり目に秋の七草を意識してみてください。いつもなら何気なく過ぎる季節行事でも、印象に残るイベントとなるでしょう。十五夜にあわせてお月見をしてみたり、部屋の七草の一つを飾って秋を感じてみたり、日本の秋を楽しんでみてくださいね。