花びらが幾重にも折り重なる姿が華やかで美しいバラ。洗練された香りも楽しめ、古くから多くの人々に愛されてきたお花です。バラ全体に「美」「愛情」という花言葉が付けられていることもあり、プロポーズなど恋人への愛を表現し伝えるときにもよく使われています。そのため、バラは「恋人に贈るお花」というイメージをお持ちの方は多いかもしれません。しかし、バラには平和の願いが込められているのをご存知でしょうか。

バラには、平和の祈りを込めて名付けられた品種があります。例えば、「アンネの思い出」または「アンネのバラ」と呼ばれているバラは、第二次世界大戦のユダヤ人の迫害の残酷さを物語る「アンネの日記」で知られているアンネ・フランクに捧げられたバラです。アンネ・フランクの形見として育てられ、アンネ・フランクの父親であるオットー・フランクによって、1975年に東京都杉並区にある中学校に贈られました。中学校では、枝分けをするなどしてさらに増やし、平和を考える機会となるようにと近隣の方にお分けしたそうです。

アンネの思い出から、さらに品種改良がされたバラもあり、「セント・コルベ」という名が付けられています。セント・コルベとは、長崎でキリスト教を宣教し、第二次世界大戦でユダヤ人を収容していたアウシュビッツ収容所において、あるユダヤ人の身代わりとなって殺害されました。また、平和を祈るという意味で「プレイ（pray、祈り）」という名が付けられたバラもアンネのバラから品種改良で生まれました。これら3種のバラは「平和のバラ3姉妹」と呼ばれ、平和活動の一環として育てられています。

第二次世界大戦には、ドイツ・ミュンヘンにおいて「白バラ運動」「白バラ抵抗運動」と呼ばれる平和のための活動がなされました。ミュンヘン大学の学生たちによる反ナチス運動で、戦争終結を呼びかけるチラシを作成し、ドイツやオースリアで配布しました。しかし、その活動はナチスの目に留まることになり、逮捕され、全員が死刑となっています。日本では知名度が高くない運動ですが、ドイツでは一般的によく知られています。ドイツでは、主要メンバー3人が処刑された2月22日に平和の願いを込めて彼らの写真と白いバラの写真をSNSにアップする人が後を絶ちません。

平和を象徴する植物ではオリーブが有名ですが、バラの花にも平和への祈りが込められています。平和に関する式典やイベント、講演会などでお花をお贈りする機会がありましたら、バラの花を贈り物に選んでみてはいかがでしょうか。